#前回⑧の島田さんとコロナスピーカーについて:佐伯多門『スピーカー技
術の100年――オーディオの歴史をスピーカーから俯瞰する――黎明期~ト
ーキー映画まで』,誠文堂新光社,2018年 の71頁に,当時の『週刊朝日』
記事の写真が再録されています.
朝倉昭さんには,オーディオやラジオ雑誌関係でいろいろ指南いただきま
した.小生もオーディオ(ハイファイ)にあこがれていたのですが,オーデ
ィオはラジオよりもお金がかかるので,いつも”スタイルブックを見てため息
をつく女性” 状態でした.後年には6RA2ppのOTLアンプを作りました.
グレース(品川無線)のトーンアームとカートリッジを使うようになって,
僕も少しリッチなんだ,と思いました.そのグレースの社長である朝倉さん
にお目に書かれるとは! 感激・緊張したものです.
氏は,良家の令息といった感じで,何事にも明晰に話して下さいました.
調布飛行場から自家用機を操縦して飛ぶなど,多趣味の人です.米国(AES)
と日本のオーディオ協会の役員を務めて,多忙のようでした.港区・品川
方面にあった富士製作所や浜地のハマチヴァルヴの工場・店の名残り(バス
操作場になった場所とか)を語って下さいました.朝倉さんは,工業会やラ
ジオ雑誌(『電波科学』であったか)の編集部に勤務していたので,情報・顔
が広い.
グレース(品川無線)は,レコードプレーヤーのトーンアームやカートリ
ッジのメ-カーです.戦後のひところ,西川電波(パーマックス)が斯界の
大手でした.パーマックスはスピーカーも作っていました.同社と創業者西
川儀市について調べたい,と思っていました.朝倉さんや,のちソニー社入
りした森園正彦さん(テープレコーダーの),吉田進氏も西川電波に勤務して
いました.朝倉さんは,西川氏が存命である旨をおっしゃっていました.し
かし,西川さんと連絡をつけることはできませんでした.何といっても西川
氏は大物です.同氏といい,佐藤俊氏といい,挫折した大物に会うことは困
難です.
朝倉さんは,すべてゆったりとした方で――余裕がある――競争社会の企業
社長にこういう人がいるのか,と思いました.小生がインタビューした方々
は誰もどこかしっかりと闘志を持っていると感じさせるのですが,朝倉さん
は一寸ちがいます.業界のコーディネーターとして貢献する人でもあるので
しょう.この点では老川正次郎さんと似ています.こういった指南役のおか
げで『ラジオの歴史』ができたのであり,大変ありがたく思います.