ラジオ・無線と政治・プロパガンダ・情報活動というと,ムズカシイ話題
でしょうか.これがラジオの本来の社会的機能なのですが・・・.日本のラ
ジオは,米国の場合とちがって政府管轄下に始まったことがその性格を規定
しています.
まず,南米の有線電信から.南米の小説を読むと,電信の話が出てきます.
広大な密林と原野になぜ電信線が? 内戦・匪賊討伐・軍隊派遣などに必要だ
ったのです.
無線では,同じ南米で,RCA社とバナナの話があります.RCAとバナナ,
ホワイ? RCAは,設立時には無線機器製造ではなく通信業務の会社でした.
RCA社を共同設立した3者のうち,一つがユナイテッド・フルーツ社(現チ
キータ)です.南米北部のベネズエラのオリノコ川流域で,同社は大規模な
バナナのプランテーションをやっていました.バナナの輸送,出荷,熟成,
収穫などの連絡のために無線を使ったのです.バナナはナマモノですし,有
線電信では中継局が入るので即時通信というわけにはいかず,途絶の心配が
あって復旧には日数がかかります.無線が好都合であり,これを必要とした
のでしょう.これが,“RCAとバナナ”のわけです.
日本では“玉音放送”・“玉音盤”の人気が衰えません.日露戦争・日本海
海戦・信濃丸の無線電信というトピックもあります.
録音関係では,ナチス・ドイツ時代のテープレコーダーがありました.ヒ
トラーの演説を録音したテープは各地の放送局に急送され,演説が放送され
ました.米軍はヒトラーの居場所を突き止めて爆撃しようとしていたのです
が,方々から彼の演説が放送されるので場所を特定できなかった,という話
です.当時,米国ではテープレコーダーは実用化されていなかったのです.
S氏と米占領軍による無線傍受業務の話を”こぼればなし”⑫に書きました.
冷戦時代の短波放送ジャミング合戦を記憶している方もいるでしょう.
FENで英会話の勉強をした人もいました.FENも宣伝戦略(謀略放送)の
一つです.
ゾルゲ事件のクラウゼンの無線送信機を復元した方がいます.日本ラジオ
博物館の岡部匡伸さんです.立派な研究だと思います.送信機は,その都度
組み立てて使用後にバラすというもので,終段管プレートには交流をそのま
ま印加する簡易な回路で(50/60Hzで変調されたA2電波になる),なかな
か考えた設計です.
ゾルゲ事件等に関連して,各国駐在の大使館の無線通信設備がどんなもの
であったか,興味があります.国際有線電信はベルリン―東京,モスクワ-
東京ほか,どれも必ず途中のどこかでイギリスの海底電信線を経由する.秘
密保持など不可能です.大使館には無線通信が不可欠であったはずです.こ
れを調べる,大使館内の無線室の位置・間取り,送信機・受信機,アンテナ,
電源,スタッフ,操作方法,操作時刻などなど.もちろん暗号や,人間が通
話したのかどうかも.さて,研究はどこから始めたらよいか,ちょっと考え
ても関係する資料・情報の断片も思い当たりません.これはおもしろくて非
常に重要な研究トピックであると思います.いまの小生にはこれに取り組む
時間・力がありません.若い研究者どなたかがいませんでしょうか.
駐在公館の無線室というトピックは,日本の在外公館だけに限りません.
たとえば日本駐在のイギリス大使館の無線室です.第二次大戦期の日本駐在
イギリス大使館の無線室の概要は,日本の諜報機関が多少とも把握していた
はずです.この諜報の記録を発掘することが可能でしょうか? ・・・赤坂に
ある米大使館の無線室は,などと言おうものなら,即,CIAに襲われるかな.
くわばら,くわばら,君子危うきに近寄らず.
某大学の危機管理学部教授で元・防衛庁,専門はインテリジェンス(諜報)
という人が『ラジオの歴史』を見たのか,出版社の社員(法政大学出版局で
はない)を介して小生に近づこうとしたことがありました.これもアブナイ
でしょうか.
スパイ関係で,秋葉原のジャンク屋が関係した事件もありました.ソ連の
諜報員が米軍基地からジャンクを仕入れているジャンク屋に接触して,米軍
の電子兵器の情報を得ようとしたのです.日本の兵器産業も,米軍の制式機
器が何に決まりそうか情報を得ようと,ジャンク屋に接近して同じようなこ
とをやっていました.