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2024/02/25 (Sun) 18:01:19

『ラジオの歴史』こぼればなし㉗(最終回)  投稿者高橋雄造

 まだまだ書きたいことがありますが,少々堅い話で”こぼればなし”を締め
くくります.
 『ラジオの歴史』を書くようになった動機:一つは自分がラジオ少年であ
ったからです.小生程度のラジオ少年がラジオの歴史を書くなんておこがま
しいのですが,書きたかった.”テレビ受像機開発における自作ファンの貢献
という事蹟が埋もれてしまうのは非常に残念だ”と語った石橋俊夫さんの表
情,それが強烈な印象となったからでもあります.小著『ラジオの歴史』は,
主観と感情移入があるので,歴史書としては落第でしょうか.たとえ落第で
あるとしても,”あ,僕はここにいたんだ”と元ラジオ少年の読者に思っても
らえればうれしい.
 もう一つは,ラジオ技術者を含む電気技術者の社会におけるステータスを
高めたいからです.諸外国では”エンジニア”と言えば社会で尊重される.日
本ではどの会社(大会社)に勤めていると言わないと通用しない.”ミチビシ
です”とか,”タク(良人)は〇芝ざあます”といった具合で,”電気技術者で
す”とは言わない.また,初任給も,小生が大学を卒業したころですが,電機
産業は化学の会社などに比べて2~3割低かった(今はどうでしょうか?).
電線メーカーに入った同級生は高給でした,電線は株式の分類では電機でな
く金属ですから.電気技術者自身のあいだでも,社への帰属意識が優先し,
電気技術者としての仲間感・連帯感は薄い.電気技術者が社会を支えている
という自負も弱い(専門職のproffesionalizationという歴史学の眼で見ると,
電気技術者はprofessionではない.)その結果,社会では誰も”電気技術が社
会を支えている”などとは言わず,電気技術者の給料は低い.小生は,電気技
術者がどのように仕事をしてきたかの歴史を書くことがこの状況を変えるの
に役立つ,と考えました.
 電気技術・電気技術者の歴史を自分で書くだけでなく,文科系の科学技術
史家や経済史家・経営史家に書いてもらう,そのために史料を集めて提供す
る.日本の技術史というと繊維産業や造船等は書かれていますが,電気関係
は少ない.あっても電気事業(電力事業)などで,電子技術関係は稀です.
繊維や造船,電気事業の技術はともかく,電子技術は文科系の研究者にとっ
て難解なので敬遠されるのでしょう.そこで,文科系の先生に電気・電子技
術を伝授して――それこそ個人教授をする――電気技術史・電気工業史を先生
のライフワークにしてもらうのです.
 このようにして始めた努力の結果か,何人かの先生にこの分野の歴史を書
いてもらえるようになりました.まず,東北大学経済学部の平本厚教授です.
インタビューに平本先生と同道したことが何回もあります.氏は,テレビ受
像機工場を見学しているうちに,ブラウン管用偏向コイル(鞍型で,”コサイ
ン二乗巻き”とか言っていた)の巻き方を覚えてしまったというのですから,
何というか,エキスパートです.小生は電気屋でも,偏向コイルの巻き方な
んかわからない.平本先生の主著は,次の通りです.
 - 『日本のテレビ産業—―競争優位の構造』,ミネルヴァ書房,1994年
 - ” 「並四球」の成立 (1) 戦前日本のラジオ技術革新”,『科学技術史』(日
  本科学技術史学会),8号,2005年,1-29頁
 - ” 「並四球」の成立 (2) 戦前日本のラジオ技術革新”,同上,9号,2006
  年,1-36頁
 - 『戦前日本のエレクトロニクス――: ラジオ産業のダイナミクス』,ミネ
  ルヴァ書房,2010年
 - 『日本におけるイノベーション・システムとしての共同研究開発はいか
  に生まれたか――組織間連携の歴史分析』,ミネルヴァ書房,2014年
 - “高度成長期電解コンデンサ産業と中堅企業の形成”,『経済学』(東北大学
  研究年報),Vol. 80, No. 1,2024年,19-41頁
ナミヨンについて論文を書く先生が世界中のどこにいます? ありがたいこ
とです.上記の電解コンデンサー論文は,大変な力作です.こういう偉い学
者と少しでも交流できた,小生は,まことに畏れ多いというか,幸せです.
(なお,電解コンデンサーについては㉒でもふれました.)
 南山大学のN中島裕喜教授は,平本先生より若く,トランジスター・ラジ
オ輸出の歴史については第一人者です.中島先生の著作は以下:
 - ”トランジスタラジオ輸出の展開—―産業形成期における中小零細企業の
  役割を中心に“,東洋大学経営論集,79号,2012年,73-94頁
 - 『日本の電子部品産業—―国際競争優位を生み出したもの』,名古屋大学
  出版会,2019年
 - ” 京セラの電子部品事業史とその周辺—―1980 年代までの動向を中心
  に”,『稲盛和夫研究』(稲盛和夫研究会),2号,2023年,21-39頁
 日本の電子工業の歴史については,平本・中島両先生の著作が基本文献で
す.平本先生,中島先生に,心からお礼申し上げます.さらに,先生方のお
弟子さんたちが電気技術史・電気工業史を研究して下さるよう期待します.
平本先生がエレクトロニクス技術の微細まで理解された,そのプロセスがお
弟子さんたちに継承されることでしょう.ラジオ工房掲示板の皆さんにも,
こういった研究者の助けになることがあったら(史料提供,技術細部をてい
ねいに説明など)ご協力をお願いいたします.

 最後に:長々と書いてご迷惑だったかとも思います.内尾さん,故・曽田
さん,皆さんにお礼とお詫びを申し上げます.『ラジオの歴史』の取材・刊行
でお世話になった方々すべてに,心から感謝いたします.
 もう一言.『ラジオの歴史』には図・写真多数があり,ラジオ工房掲示板の
皆さんの記憶をよみがえらせて楽しんでいただけると存じます.図版をたく
さん収録できたのは,法政大学出版局の秋田公士さんのおかげです.この意
味で『ラジオの歴史』は同氏の作品です.秋田さんに心からお礼申し上げま
す.

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